遠き山に日は落ちて

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子どもたちが登校して先ず最初にすることは、防護スーツのままシャワー室へ向かい、シャワーを浴びて除染する。 スーツには各自、自分のものと判るよう大きく番号がプリントされている。 脱いだ後は、除染機能を備えた専用クローゼットにスーツを預け、引替札をもらって教室へ向かう。 授業が始まるのはそれからだ。 全校生徒分の防護スーツをどうやって保管しているのか、疑問に思うかもしれない。 答えは明白。 全生徒数はわずか六人。 教師にいたってはたった一人しかいないのだ。 麻未と拓真が、二人の乗車を待つ送迎バスに飛び乗る。 間髪入れずにドアが閉まり発車する。 手すりにつかまりながら、同じく防護スーツ姿でシートに座る友人たちのもとへ、四苦八苦しながら進んでいく。 すると、下校アナウンスと同じフラットでロボティックな女性声で、 「当送迎バスは28.22秒遅れで発車しました。ほんの少しの遅れが命取りになります。注意しましょう」 と告げられる。 たがいに顔を見合わせ、麻未が拓真をヘルメットの上から小突く。痛みも衝撃も感じないが、反射的に身体をすくめる拓真。 ほかの四人は、その様子を見て笑っている――と思われる。
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