或る書店員の憂鬱。

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注目作に話題作、受賞作に選外作、 専門書でも自己啓発本でもビジネス書でもミステリーでも純文学でもラノベでも 俺はなんでも読む。 本屋に勤めているという利点を最大限に生かし誰より多くの本を読んでいると勝手に自負している。 そこを買われたのか幾つかの賞レースの下読みも最近では任されるようになっていた。 俺の部屋に読むことを待たれ平積みにされている不憫な本など一冊とてない。 神は俺にイケメンの風貌こそ与えなかったものの、芥川龍之介も顔負けの速読技術を与えてくれた。ありがとう神様。 できれば素敵な容姿も欲しかった。 しかしそんな読み専のエキスパートの俺だからこそ嘆かわしくも報われない悩みごとがひとつあった。 それは文豪と呼ばれる諸偉人はさておき、 亡くなった作家の書籍が幾つかの代表作を除いては、撤去されていくという現実だ。 昨今、この業界は出版点数が多すぎるのだ。 本屋の棚面積には絶対的制約がある。 よその国のことは知らないが、日本の出版社は亡くなった作家には結構当たりが冷たいように思う。
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