雨が止んだら

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 なんだか不思議な言い方だった。けれど、実際に絵を前にして聞いているからよく分かる。この向こうには本当に「世界」があるんだ。  店員さんは言った。  「夢見がち、というか空想癖というか……とても信じやすい人だったみたいです。幽霊のイタズラを本気にしちゃったり、絵の中の動物を本気で怖がったり……でも、それって悪いことじゃないですよね。これは本当の物語なんだよ、この世界は本当にあるんだよって信じてるってことですから。」  なんだか胸の奥を掴まれるような感覚がした。心がぎゅーとなる。  手に触れられるくらいの実感の意味が分かった。だってそこには本当にその世界が存在しているから。いま私もそれを信じているから。  「このお店をやっている理由でもあるんです。物語を追いかけて世界を追いかけて、気付いたら自分も作家になってて……だから感謝を込めて絵を飾ってるんです。」  店員さんの言葉に私は周りを見渡した。たくさんの本、たくさんの物語、そこにはそれだけの世界があって……ずうっっと広がってるんだ。  唐突に思い出した。子供の頃のこと。私は絵本を読んでもらうのが好きだった。そこには動物がいて妖精がいて竜がいて。森があれば川がある海もある。お姫様にだってなれるし空だって飛べる、ずっと遠くの国へ行くことだってできた……なんで忘れてたんだろう……
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