灰人、いつかの終末にて

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灰人、いつかの終末にて

 伽藍堂樹木〈がらんどう・いつき〉の足が、ガラス片をくだいた。  建物の入り口に扉はなく、その名残である材木が床に散らばっている。  荒れ果てた空間は、元来の機能や意味を、とっくに失っていた。  ここにあるのは、中身のない、ただの形骸だ。  サビやカビやホコリ……荒廃のにおいが鼻をつく。 「やはり書店だったか」  つぶやき、十字弓〈クロスボウ〉に巻きつけた懐中電灯で、なかを照らす。 「案外、広いな」  奥は闇に包まれて端が見えず、ドーム状の天井は高い。  本棚の多くが引き倒され、行く手を阻む障害物となっている。 「まるで死体の山だ」  床は一面、積み重ねられた本で埋まっていた。  探索には時間がかかりそうだ。 「伽藍」  耳もとで声。 「なにか、います。気をつけて」  声の主は、塵芥〈チリアクタ〉だ。彼女の手が、軽く耳に触れている。 「久々の獲物だな。そろそろ空腹に耐えかねていたところだ」 「よかったですね」 「ほんとうに、いるんだろうな? 期待させておいての空振りは、なしだぞ」 「チリアちゃんが言うなら、まちがいないっす!」  反対側の耳に、べつの声が響いた。灰燼〈クァイシン〉だ。
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