Kさんの話

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 鍵を開けて、部屋に入るとついていたはずの電気が消えていた。  かすかにインクの匂いがしたという。  まだ初夏にさしかかろうという時期、一直線になっている台所とベランダ側の窓を開けて風を通してしまえば、匂いも気にならなくなった。  スマホでニュースをチェックしながら、弁当を食べる。  すっかり使わなくなったデスクトップのパソコン。ベッドサイドには、週末に新古書店で買ってきた本が山と積まれている。買ってはみたものの、山が崩れるのは随分先になりそうだ。 「最近は電車でも、本を取り出すのが億劫で。ついついスマホになっちゃうんですよね」  本好きの後ろめたさあるあるですね。ねえ、と相槌をうって本題に戻るKさんは本当に優しい。  疲れていたKさんは、すぐに寝たのだという。といっても日付が変わるか変わらないかの時刻だった。
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