Kさんの話

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「おそらく万引きされた本だったのでしょう。  一度も読まれずにいることのうらめしさから、現れたのでしょうね」  Kさんが住んでいる沿線には、ネットでは知る人ぞ知るラノベ好きの書店員がいる書店があった。SNSでの情報発信や作家・イラストレーターと直にコンタクトしてのイベントを企画するなど、その熱量は今もいくつかのまとめサイトで知ることができる。 「私もそのひとの紹介で気になっていたのが、その本を買った理由でした」  ちょうど件の書店員さんが、引退した時期とも重なっていた。 「完結しているシリーズなのですが、残りは新刊で買うつもりです」  いや、つまらない話で時間を取らせてすみません、と詫びながらエレベータに乗るKさん。  ドアが閉まろうとする瞬間、ビジネスバッグにそぐわないラバーチャームの少女がこちらに向かってウィンクをした。                                 (おしまい)
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