猫屋敷のひみつ

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『猫屋敷』と呼ばれる、知る人ぞ知る本屋さんが近所にある。猫屋敷には名前の通り、猫がたくさんいる。いや、猫しかいない。店員は見当たらず、二十匹近い猫が適当にくつろいだり、眠ったりしている。店の中は猫と本で溢れんばかりになっている。客たちはみな、立ち読みしたり、猫を撫でたりしている。  僕はこの本屋の常連だ。猫に癒されるのももちろんだが、猫がお勧めの本を教えてくれる。僕がぶんちゃんと呼んでいるしましま猫は、書棚にぴょんと飛び乗って、お勧めの本に手を置いて、僕を見つめる。僕はその本を手に取り、ぱらぱらとめくってみる。もうそれだけで僕はその本に夢中になってしまう。ぶんちゃんはその間、僕の足下で寝そべって、毛繕いをしている。ぶんちゃんはなぜか僕の好みを完全に把握している。  僕はぶんちゃんを十二分に撫でて、無人のレジに代金を置き、猫屋敷を後にする。そして徹夜でぶんちゃんお勧めの小説を読破する。  もう寝不足の日々が続いて、ふらふらだ。猫屋敷に行かないほうが身のためだ。でも、つい足がのびてしまう。猫屋敷はドラッグやアルコールよりも強力に僕をひきつける。もしあなたがまだ猫屋敷を知らないのなら、それはとても不幸なことだ。場所を教えてあげたい。  でも、僕のように猫屋敷に魅了されると、社会からドロップアウトしてしまう危険も潜む。  だから、あなたには猫屋敷の場所は秘密にしておこう。  じゃあ、いまから、猫屋敷に行ってくる。さよなら、また。
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