走る本屋さん

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 ステップを出して、中に入り、靴を脱いで昨夜整えた本棚の状態を確認すると、聡は清掃を始めた。 持って来た濡れ雑巾で棚の拭き掃除から始める。  小さな書店と呼ぶより、むしろカフェの様な内装で、クリーム色の壁紙には小さな額縁に入った絵や写真なども飾られている。清掃中の聡の目にその中の一つが目に入った。  それは、本を持って満面の笑みを浮かべる小さな少年と、こちらを見て優しそうに微笑む老人の姿。聡は微笑むと額縁を綺麗に拭いた。 「おはよう、じいちゃん」  拭き掃除が終わると、今度は床に敷かれたカーペットの清掃だ。細長い小さな収納スペースにおいてあるコードレスクリーナーを取り出すと、聡は丁寧に掃除機をかけはじめた。  小さな椅子の下も綺麗に清掃し終えると、聡は外へ出てステップをたたみ、扉を閉めて、運転席に座った。 あらかじめ入力してある依頼を受けた場所をカーナビに設定した。 今日行くのは高速道路で二時間、下道で三十分の小さな港町。 聡は意気揚々とハンドルを握り、その小さな書店を発進させた。
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