命の灯

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 中学に上がると、聡は陸上部に入った。部活動が始まってから、本を読む機会はこれまでよりもぐっと減り、いつしか本を読むことへの情熱も覚めてきてしまっていた。  二年生の夏、聡は部活中に怪我をし、足を骨折してしまった。  病院のベッドの上で足を吊られたまま、動けない聡が大会に出場できない悔しさに涙していると、見舞いで訪れた祖父がある本を差し出した。  それは、不慮の事故で右足を失ったアスリートがパラリンピックで金メダルを取るまでの実話が書かれた話だった。祖父はいつものあの優しい笑顔で語り掛けた。 「また、来年頑張ればいい。ダメなら、その先がまたあるじゃないか。気を落とすんじゃないぞ」  その励ましの甲斐あって、聡は翌年の大会でよい成績を修めて引退することができた。 そうして、もうひとつ、その出来事が再び彼の本への情熱を取り戻すきっかけともなり、引退後は昔のように受験勉強の合間を縫って、本を読み漁るようになった。
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