想いのリレー

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想いのリレー

 祖父の残したお金と自身で稼いだ金を合わせて、聡は車を特注し、移動本屋を始めた。  港町の目的地は坂の上だった。海が見えるその坂の、白い壁に赤い屋根をした、かわいらしい家の前に車を止めると、聡はその家のチャイムを押した。 「はーい」  声と共に扉があいて、長い黒髪を後ろにまとめたロングスカートの声の主らしい女性が現れた。 「倉橋移動書店です。お待たせしました」  聡がそういうと、女性はちょっと待ってくださいね、と声をかけると中へと駆けて行った。  そうして、今度は呼吸器をつけた七、八歳くらいの少女を連れて出てきた。 「ゆうちゃん、本屋さんが来たわよ。ご挨拶をして」 「こんにちは、本屋のお兄ちゃん」  少女は聡の姿を見ると、にこりと微笑んだ。彼女は小児ガンを患い、長期自宅療養を余儀なくされており、学校にもまともに通うことができない。  そんな彼女の唯一の楽しみが、毎週水曜日にこうしてやってくる移動本屋なのだと、母親から聡は聞いていた。  聡が彼女を抱っこして店の中に連れて行くと、ゆうちゃんは絵本の入ったカラーボックスの前に座り、目を輝かせて、棚から本を取り出していた。  彼女の為に毎週、嗜好に合った新しい本を探して本棚に追加する。嬉しそうに本を開き、次から次へと本を手に取る彼女の姿を見るのが、聡は好きだった。 「お兄ちゃん、この本が欲しい!」  ゆうちゃんが聡に手渡したのは、かつて聡に祖父が選んでくれた最初の絵本だった。  ……祖父の想いを形にしたこの店が、祖父と同じ病気と闘っているこの少女に力を与えてくれている。  いつか、彼女もまた、自分と同じように誰か大切な人に本を選ぶようになる日が来るだろう。  夢を乗せて、移動する書店は、喜びと感動を与えるために、今日も走る。
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