作家の卵と夏の檸檬

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 というか、このままではやばい。  このままだと、本当に今日中に干からびて死んでしまうかもしれない。 「……仕方ない。安息地を求めてさすらうか」  部屋でゴロゴロしているだけで死の香りを感じ始めたぼくは、最後の気力を振り絞って立ち上がり、呆然とした態度のまま外出の準備を始めた。  まだ他人に見られても良い必要最低限の格好に整えると、家を出る。  外は部屋の中より湿気が二割減だったが、その代わり二割増しで体感的に気温が高かった。  梶井基次郎先生のいう神経衰弱というよりかは、むしろ神経の伝達能力を失ったゾンビのように力なく、街から街へ人工的な黒いアスファルトの道を重い足取りで浮浪する。  燦々と照る太陽の鋭く尖った日差しと、夏の蒸し蒸しとした厭らしい灼熱に頭を朦朧とさせながらも、朧げな記憶を頼りになんとか入り口上にある橙色の看板がトレードマーク店へとたどり着いた。  そこは、ぼくが行きつけとしている古書店だった。  古本屋さんにしては小説や資料集が揃っており、またどれも、とてもリーズナブルな価格で販売されている。立ち読みも可で、買い取りの際は誠実に査定してくれる。まさに非常に良心的なお店なのだ。  自動扉が開くと、エア・コンディショナーによって強引に冷やされた空気が体に吹き付ける。あぁ、冷気が心地よい。  中へ足を進めると、埃臭さと古い本の香りが入り混じった空気の中で、眼鏡を光らせながら戸棚を整理していた三つ編みの女の子がこちらに気が付いた。手を止めてこちらへ笑顔を向けてくれる。
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