花火が散る、その瞬間は

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そんな、そんなこと…できるのは1人だけだ。 会長の目を盗んで、費用を狂わせることなく捻出できるのは、たった1人、優秀な会計係しかいないのだから。 ばれていたなんて、ここで初めて気づいたのだ。 ほんとに、彼はどこまでもおかしい人だ。私のためにこんなことをするなんて。 「あはは……」 なんだか笑いがこみ上げて止めることができなかった。 一所懸命な10発も、たった5発に拍子抜けさせられて、もう、どうでもよくなってしまった。 「そっかあ……。勇輝、好きだった。ずっと好きだった…ごめんね、ありがとう。幸せに」 10年の思いはあっけなく口からこぼれ落ちて、涙で終わるはずの忘れられない思い出は、笑顔のまま幕を閉じた。 花火で思い出すのはもう、この人ではないのだ。
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