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取り敢えず花音には、深いクサビを打ち込んで置く事にした。
(打ち込まれたクサビが、より深いところで化膿し、花音に毒が回った頃を見計らって、容赦なく一気に叩き潰す)
隆仁が花音の側を離れた隙を狙って、カーテンの陰に強引に連れて入った。
まだ幼い花音をアルコーブの陰に連れ込んで、痛めつけた時のようにだ。
「久しぶりねぇ、花音」
「元気そうで良かったわ。また私の身代わりを演じているなんて、ご苦労様だこと」
艶やかに微笑むと、シャンパングラスを左手に持ち替えた。
「ねぇ、隆仁の夜のお守りは大変でしょう」
シャンパンを口許に運ぶ。
相変わらず豪華な大輪の薔薇のように美しい咲姫。
シフォンのサファイヤ色のブルーに包まれて、指にはめた指輪がさらに煌きを増す。
「綺麗でしょう。別れる前の夜に隆仁がはめたのよ」
「ベッドの中で【最後の夜の記念だ】、なんて言ってね」
思い出したように、口許に微かな笑みを浮かべる咲姫。
「あの夜の隆仁の熱かった事。僕を忘れられないようにしてやる、なんて言って・・激しかったわ」、思い出に目を潤ませる咲姫。ついでに哀しそうな微笑みも作って見せる。
花音がその言葉に、息を呑んで震える。ここまでいけば、後はチェックメイトだ。思いっ切り、ギザギザのクサビを打ち込んでやった。
「彼を捨てた事を、後でとっても後悔したわ。やっと私も今になって、隆仁だけの女になる覚悟が出来たの。花音、解って!」
「隆仁にまた、三年前の夜みたいな酷い真似をさせないで欲しいの・・お願いよ・・」
会場の向こうで友人達と談笑している隆仁に、咲姫がグラスを軽く上げて見せた。慣れ親しんだ恋人らしい振舞いだ。
「詰まらないお芝居は止めて。隆仁はもう咲姫を、愛してなんかいないわ」
ついに咲姫の罠にハマった、馬鹿なワタシ。
「そう、花音は随分と自信があるのね」
艶やかに微笑む姿は、本当に大輪の薔薇の花のような女だ。
咲姫と比べられて育った幼い頃からの劣等感は、どうしても拭い切れないトラウマだった。
「そうね・・まぁ、花音も頑張りなさいな」
「でも愛の記念に、指輪の一つも貰えないなんて。なんて可哀想な花音なの」、私の頬を撫でようとするから、思わず後ろに飛び退って咲姫を睨んだ。
艶やかな、勝利の笑みを浮かべる咲姫。
まんまと罠に掛かった愚か者の私。唇に血がにじむほど強く嚙み締めた。
(あぁ・・胸が苦しい)
青いシフォンのドレスの裾をひるがえして、艶やかな退場を決めた咲姫を茫然と見送った。
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