第六章  咲姫と “魔笛”

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 手を引いてパーティー会場からスウィートルームに戻るのも、酷くもどかしい。  抱き上げて部屋に運び込むと、急いでドアに鍵を降ろした。僕はもう無我夢中、熱くなった身体を押しつけて花音を奪った。  「もう許して」  何度も、耳元で囁く花音。  (無理だ!・離せなるものか・・あぁ、花音)  一晩中。胸の中に包んで愛した。  そして朝。  ベッドの上で、又しても僕の捕虜は生意気な口をきいた。  「貴方の夜のお守りは大変でしょうって、咲姫が昨夜言ってたわ」  「その通りだから、ご褒美をちょうだい」  「何が欲しい」  胸に抱き上げて、腕の中に捕まえた。  花音が珍しくおねだりをしている。  僕に甘える花音。  嬉しさが溢れそうな僕。  (此れは良い兆候だ・もっと甘やかして遣る)  花音が耳元で囁くから、僕は興奮で赤くなった。  驚いた僕は、花音を胸から降ろしてその腹部に手を当てる。  恥ずかしそうに笑って、僕の手の上に自分の手を重ねた。  「まだ二カ月だもの。膨らんでなんかいないわ」  それから不安そうな震える声で・・聞いた。  「産んでも良い、と言って」  僕の胸に顔を埋めて、縋り付くような震える声の花音。  産んで欲しいに決まっている。  まだ不安そうにするから、バツを与えて遣った。  唇を重ねて、熱く迫って見せる。  慌てて逃げようとするから、また捕まえて耳元で囁いて遣った。  「栄達師匠から三人は子供を産ませて遣ってくれ、と頼まれている」  「この子は最初の一人目だ」  言い終わらないうちに、花音が怒り出した。  「何時そんな約束をしたの。然も子供の数まで」  僕の楽しそうな笑い声に、悔しそうにする花音。  そして・・嬉しいと言って頬を染めた。  可愛い僕の花音を、胸に包んで抱き締めた。  「花音。君だけだ」  「僕の妻は、君だけだよ」  腕の中の花音の髪の香りが僕を誘う。  母の遺体が霊安室から運び出されたあの朝の、抱き締めた少女の髪と同じ花の匂いがした。  初夜の床で花音を愛した後で。抱き締めた花音の髪の匂いが、なぜ咲姫を連想させたのか。僕はやっと思い出した。
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