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手を引いてパーティー会場からスウィートルームに戻るのも、酷くもどかしい。
抱き上げて部屋に運び込むと、急いでドアに鍵を降ろした。僕はもう無我夢中、熱くなった身体を押しつけて花音を奪った。
「もう許して」
何度も、耳元で囁く花音。
(無理だ!・離せなるものか・・あぁ、花音)
一晩中。胸の中に包んで愛した。
そして朝。
ベッドの上で、又しても僕の捕虜は生意気な口をきいた。
「貴方の夜のお守りは大変でしょうって、咲姫が昨夜言ってたわ」
「その通りだから、ご褒美をちょうだい」
「何が欲しい」
胸に抱き上げて、腕の中に捕まえた。
花音が珍しくおねだりをしている。
僕に甘える花音。
嬉しさが溢れそうな僕。
(此れは良い兆候だ・もっと甘やかして遣る)
花音が耳元で囁くから、僕は興奮で赤くなった。
驚いた僕は、花音を胸から降ろしてその腹部に手を当てる。
恥ずかしそうに笑って、僕の手の上に自分の手を重ねた。
「まだ二カ月だもの。膨らんでなんかいないわ」
それから不安そうな震える声で・・聞いた。
「産んでも良い、と言って」
僕の胸に顔を埋めて、縋り付くような震える声の花音。
産んで欲しいに決まっている。
まだ不安そうにするから、バツを与えて遣った。
唇を重ねて、熱く迫って見せる。
慌てて逃げようとするから、また捕まえて耳元で囁いて遣った。
「栄達師匠から三人は子供を産ませて遣ってくれ、と頼まれている」
「この子は最初の一人目だ」
言い終わらないうちに、花音が怒り出した。
「何時そんな約束をしたの。然も子供の数まで」
僕の楽しそうな笑い声に、悔しそうにする花音。
そして・・嬉しいと言って頬を染めた。
可愛い僕の花音を、胸に包んで抱き締めた。
「花音。君だけだ」
「僕の妻は、君だけだよ」
腕の中の花音の髪の香りが僕を誘う。
母の遺体が霊安室から運び出されたあの朝の、抱き締めた少女の髪と同じ花の匂いがした。
初夜の床で花音を愛した後で。抱き締めた花音の髪の匂いが、なぜ咲姫を連想させたのか。僕はやっと思い出した。
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