第六章  咲姫と “魔笛”

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 3・  花音のお披露目を兼ねて、十文字家の創業記念パーティーは予定通りに、盛大に開かれた。  咲姫はこの日に、狙いを定めていた。  「そろそろ花音に打ち込んだ楔の効果が、現れる頃ね」  創業記念パーティーに招待されて、会場にやって来るのは十文字家と関りのある人達ばかり。  隆仁の愛人と幼い頃からの許婚とが決着を附けるのには、丁度良い場所が必要だと思っていた咲姫にとって、願っても無いチャンスだった。  勿論、隆仁の援助は、喉から手が出る程欲しい。  だがそれ以上に、花音の後塵を拝するなど我慢が為らなかった。  今の咲姫は、社交界の寵児だ。  花音の噂を流すなど、至って容易い。  「十文字隆仁の新しい愛人は咲姫の義理の妹だ」、と言触らしてくれるのに都合の良いお喋りな有閑マダムの多くは、咲姫の宝飾店の顧客だ。  大いに利用した。  噂は噂を呼ぶ。  「立木信之の二度目の妻の連れ子だった貧しい孤児の花音は、参議院議員・立木信之の娘に生まれた美しい義姉の咲姫を妬んで、咲姫の幼い頃からの許婚を身体で誘惑して奪い取った、悍ましくて如何わしい娘」  それが定説に為った。  マスコミに名が売れた咲姫を知る人々の間では、「花音は身体で男をたぶらかした、汚らわしい女だ」、と評判になっている。  楔の効果を最大限に利用して、花音を叩き潰す。 『花音を隆仁の愛人として片付けたら、堂々と十文字隆仁の許婚に返り咲く』  咲姫の頭の中では、シナリオが完成していた。
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