第六章  咲姫と “魔笛”

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 今日のパーティーは、隆房の企みだ。  必ず咲姫が何かを仕掛けて来ると踏んで、迎え撃つ準備をした。  今日の為に、特別に純白のドレスを誂えたのは、花音のお披露目を一層華麗に見せる為だ。会場には、溢れる様にピンクと白いバラを活けさせた。柔らかな色彩の紅白だ。  輝くティアラと、天然真珠の高価なネックレスが、花音の初々しい美しさを更に引き立たせている。  指に嵌めた指輪は、花音のたっての願いを隆房が聞き入れた指輪だ。  三年前の結婚式で隆仁が花音の指に嵌めた隆房の亡き妻の指輪が煌めいて、花音を邪気から守っている。  会場に招待客があふれる中を、隆房に手を取られて登場した花音。  咲姫の流した噂を信じていた人々の間に、動揺のざわめきが広がる。  「隆仁さんの愛人じゃ無かったの」  「如何して当主の隆房さんが、手を取って連れて入って来たの」  ザワザワとして居る中で、隆房が花音を紹介した。  「六条院家の令嬢を、十文字家の跡取りがやっと妻に迎える事が出来た」、と言っている。  更なるざわめきが、会場を包んだ。  十文字家との交流が深い人々の間で、拍手が湧き起こった。  「先代が望んでおられた夢が、やっと叶ったのですな。いや、これは目出度い」  「そうですか。あの名門だった六条院家のお嬢さんか」  隆房の友人が祝福を口にすると、会場が拍手の渦に包まれた。  この辺りも、隆房と打ち合わせが出来ている彼の友人の機転だ。  咲姫は唇を噛み締めて、花音を見据えた。  (なんて事なの!・隆仁の妻だなんて)  その上、隆仁が花音から片時も離れず、ずっと腰に手を廻して自分のモノだと誇示して居る。  (此の勝負はご破算。諦めるしかに無いが!悔しい)  咲姫は何か一つくらい、意趣返しをして遣らなければ、気持ちが収まらなかった。  そんな花音の指輪に目を止めて、切り口を見つけたと思った。  自慢じゃないが、咲姫は宝石には詳しい。  「あれは大きさや色からして、そんな高価な品じゃ無いわ」
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