第六章  咲姫と “魔笛”

12/18
470人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ
 ビジネス鮫の隆仁が金持ちなのは、皆が知っていることだ。  (妻にケチ臭い指輪しか与えていない・・と嘲笑うピエロが必要ね)  ピエロにピッタリの男性のエスコートで、今日はパーティーの客に為った。  こういう役がお似合いの、隆仁の恐ろしさを知らない大金持ちのボンボンだ。  その花音は、咲姫の美しい姿を感嘆の思いで見ていた。  「圧巻の美しさだわ」、大人の可愛らしい美しさだと感心した。桜ピンクのシルクドレスにダイヤモンドが煌めくネックレス。指には大粒の見事なダイヤモンドが、ネックレス以上に輝いている。  童話の中に登場する魔女のように、あくまでも美しい。  柔らかに結上げた明るい色合いの咲姫の髪が、シャンデリアの煌きに艶やかに映える。  この次に魔女を描く時は、今日の咲姫をキャンパスに映したい。  (でも今は描けない。隆仁に厳しく止められている身だもの)  チョット不満だが、お腹に視線を注ぐ時の隆仁が余りにも幸せそうにするから・・仕方が無い。  横の隆仁に目を戻して、思わず微笑んでしまう。  今は隆仁の確かな愛の証を、身体に宿している花音だ。  (女に生まれるって、なんて誇らしい事なんだろう。きっとお母さんもこんな気持ちだったのかな)、亡くなった母を思い出して。チョットだけセンチメンタルに浸った。  咲姫は魔女の微笑みを浮かべて、企みを実行中だった。  楽しそうに隆仁の腕の中で甘やかな新妻を演じる、憎たらしい娘だ。思い知らせてやる気が満々だった。  色々と吹き込んでおいたピエロを、花音の側に向かわせた。  隆仁と握手をした後で、花音にも手を差し出すピエロ君。  笑顔で応じる花音を、咲姫は白ワインが入ったグラス越しに見ていた。  花音の指に嵌められた指輪を見て、眉を片方上げて軽く肩を竦める咲姫のピエロ君の抜群の演技が輝る。  「隆仁さんは貴女に、婚約指輪を贈らなかったの?良い品だけど、小さいし。デザインから見てそうとう古いモノだよね」  「もしかしたら、お母さんの形見ですか?」  「ああ、失礼。お母さんは立木さんの後妻だったあの女性ですよね。それじゃあ、違うな」  軽く見下した口調で言うと、皮肉な笑みを見せた。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!