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連絡先を書き込んだ名刺を置いて帰って行った藤村氏と入れ違いに、立木信之の邸から家政婦のキヨさんが色々なものを持って、病室を訪ねて来た。
秘書から私の事を聞いて、色々な物を持って来てくれたらしい。
「お久しぶりですね。キヨさん」
「母の面倒をずっと見て下さったと、看護師さんから聞きました。本当に有難うございました」
二年ぶりに会ったキヨさんは、私が立木信之の邸に別れを告げた頃と、それ程変わってはいなかった。
「今まで、何処にいらしたのですか。奥様はただ親戚の家に行ったと仰るだけでねぇ、信之様も咲姫様も呆れて聞いて居られましたんですよ」
「でもまぁ、あんな家ですからねぇ。花音さんの事なんてね、奥様がこんな風に為られてからやっと思い出した訳ですけどねぇ」
相変わらずの口調で、愚痴を長々と語ったキヨさん。本当に呆れた家だと、溜息をついた。
「咲姫さんの結婚が近いって、さっきお義父さんから聞いたけど、いよいよ十文字家に嫁がれるのかな」
それと無く、話を持って行った。
あの俗物の塊の様な義父が、あれ程嬉しそうに語ったのだから、それ以外の結婚相手は思い浮かばない。
「それがねぇ、聞いて下さいよぉ」
どうやら結婚相手は、十文字隆仁に間違い無いらしい。挙式の予定は年が明けたら直ぐにも、と言う事だった。
「それなのに咲姫様ったらもぉ。遊べるのも今の内だとか仰って、他の殿方とのお泊り旅行にお出掛けなさってねぇ」
キヨさんの言葉を借りれば、事の発覚が恐ろしくて夜も碌に眠れないとか。
相手の男性の名前を聞いて、驚いた。
「まさかねぇ、あんな名門のお坊ちゃまとねぇ」
キヨさんが呆れかえっている相手の男は、大臣経験者を多数輩出している政界の名門の家柄の長男だ。
そのサラブレッドの跡取り息子は、私も知っている。
結構なイケメンで、女性達の注目を集めている独身の代議士一年生だ。
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