第二章  花音と☆"幻想即興曲”

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第二章  花音と☆"幻想即興曲”

 (序章)  ショパンの12のエチュードは、北欧の濃い霧が流れる深い森を連想させる。それは白い馬が駆け抜ける神秘の森。  そんな深い森の中に迷い込んだ妖精のように、愛の森に迷い込んだ花音。  森の中で出会った妖精の国の王子様は・・本物か⁈  ・・・それとも魔物か?  ー1・ー    隆仁は病室の外で涙を拭いている、十人並みのつまらない容姿の娘を見て、多いにガッカリした。  化粧すらしていないこんな娘になど、幾ら復讐の目的に叶うとは言っても触指が何も動かない。  「妻にしても、抱く気が全く起こりそうも無い」、気分が落ち込みそうだった。  花音が顔を向けて、真っ直ぐな視線を隆仁に投げたのは、そんな時だった。  強い眼差しで、彼を見ている娘。  「十文字家の御曹司が、母に何か御用ですか」  娘の良く透る声が、人気のない廊下に響いた。  「君に会いに来た」  「お義父さんと咲姫さんを救うチャンスを、君にあげようと思ってね」  隆仁の言葉に呆れて、苦笑が漏れる。  立木の家にも咲姫にも、何の未練もないし愛着も感じない。私の犠牲などあり得ない事を、目の前の十文字隆仁は知らないらしい。  「十文字家の若様が義父に政治献金を再開してくださる条件なんて、きっと下らない事でしょうね。いっその事、サッサと立木の家など潰してしまっては如何ですか」  「スッキリしますよ」  ストレートな物言いに、隆仁は戸惑った。  立木信之から聞いていた娘の様子からは、思ってもみなかった反応だ。  咲姫からもこの娘の事を、殆ど聞いた事が無かった。  『目の前に立っている娘の事を、彼は何一つ知らない』という事実に、隆仁はその時になって初めて気付いた。  「チョットだけ、苛めて遣ろう」、花音の心の中で小悪魔が、そんな言葉を囁く。目の前で詰まらない提案をする間抜けな男が、いたく不快だった。  「折角来て下さったのだから、母に会って行かれますか」  ここまで来て見舞いもせずに帰る方が、よほど不自然だろう。  「お見舞いをさせて頂こう」  隆仁は病室のドアに手をかけて、花音を振り返った。  花音が寂しそうに微笑んで、頷く。  何だか自分が途轍(とてつ)もない冷血漢に思えて、困惑を覚えた。  病室の中は、優しい花の香りと微かなピアノ曲の調べが流れて、穏やかな雰囲気を漂わせている。  「今はまた、薬で眠っています」  ベッドにチューブで繋がれて眠る花音の母は、何とか命を取り留めたものの、生気のない顔でそこに横たわっていた。
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