第二章  花音と☆"幻想即興曲”

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 黒い髪はただ束ねて、色気のない黒いゴムで縛っている。今時、こんな髪型をしている女は、きっとコイツだけだ。  女子中学生だって、お洒落にはもっと気を使う。  娘をもう一度、上から下まで見回して、隆仁はウンザリした。  カーキ色のセーターにジーンズ。そして同じカーキ色のエプロン姿の娘を、マジマジと見た。  足には、ただの白いスニーカーだ。言葉が出て来ない。  いったい何処で、こんな服を買って来たのだろう。(ワークショップだろうか?・・軍手の横で売っていそうだ)  「僕は金持ちなんだよ。僕の妻に為れば、もっと楽な暮らしが出来る」  「考えてみないか」  言って遣った。  さっきの仕返しだ。  本当に貧乏くさい服装だ。  咲姫は何時も、ファッション誌から抜け出して来たみたいに素敵に身を飾って、周りの人たちが見惚れていた。  咲姫を思い出して、また少し心が苦しくなった。  花音はチョット戸惑っていた。  <コイツはどういう心算で、こんな事を言うのだろう。私の身なりを整えてくれる、と言っているらしいけど>、首を傾げてしまう。確かに義父の若い秘書はセンスの欠片も無い、実用的で無味乾燥な衣類を買って来て花音に押し付けた。買いに行くのが面倒臭いから、黙って着ているが。  確かに酷い。  心の中で色んな声が疑問をぶつけ合っていたが、花音の口から出た言葉は一つだけだった。  「アナタとの結婚なんて、絶対にご免です。母の様にはなりたくない」  僕の手を振り払って歩み去ると、娘は病室の中に消えた。  何故か、気になる女だ。  三日程して、僕はまた病院を訪ねてみた。  花音はアパートに帰って、着替えと入浴をする積もりで病室を出た所だった。また来るとは思ってもいなかった十文字隆仁に捕まった。  娘は警戒の眼差しを向けた。  「やあ、また来たよ。今日こそは良い返事を貰いたいね」  テレビドラマのヒール役のような言い草が口をついてでる。僕と花音は自販機の前で、カップコーヒーを飲んだ。  「仕事は如何したの。忙しかったから、咲姫を逃しちゃったんでしょう」  何て可愛げのない娘なんだ。傷口をグサグサと抉って来る。  睨み付ける僕に、軽く首を竦めて見せた。  「言い過ぎたわ。ご免なさい」  小さな声で、僕を見ないで詫びた。  「私は捻くれてて可愛げが無いって、解ってるのよ。東京で立木の家に関わってると、自然にこうなっちゃうの」
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