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その十三歳の咲姫は。
咲き始めたばかりの、薄いピンクの薔薇の蕾のようで。『ベルサイユの薔薇』というアニメの登場人物を彷彿とさせる。豪華なレースと輝くティアラが似合う、まさに優雅なプリンセスだった。
学園のアイドルだった咲姫は、下僕の女生徒の上に君臨するプリンセスそのもの。そして私はと言えば、その王女様の恥さらしな貧乏育ちの卑しい妹。何時も咲姫グループの虐めの対象だった。
絶えず身体中に、幾つものアザがあったものだ。
咲姫の虐めは、何時も陰湿だった。決して自分で、手を下したりはしない。
召使のように私を使い。気に入らない時は、取り巻きの女生徒に言い付けて<お仕置き>をさせるのだ。
母も薄々は気付いていたようだが、私の為に出来る事などなにも無い。
まるでジェーン・エアを地で行くような生活だった。そんな時には、何時も歌が友達だった。私の身体に流れる芸術家の血は濃い。
碌に習わなくても、ソルフェージュもピアノも得意だった。
咲姫が音楽の家庭教師に教えを受けている後ろで、見て、聴いて覚えた。
歌曲も、難なく熟せる。
辛いときは、音楽に逃げた。
あの当時の私を、いつも優しく包んで支えてくれた歌・・それが、“アメイジング・グレイス”だった・・・祖母が残してくれた、想い出の中に生きる唄。
そして中等部の一年生になった十三歳の私に、私の事が嫌いで仕方が無い咲姫がビックなプレゼントをくれた。
「何時までもこんな見っともない妹を、同じ聖エリス女学園に通わせないで。お父様」、涙を浮かべて。在る事無い事を立木信之の耳に吹き込んだのだ。
「十文字家の隆仁さんの手前だって、恥かしいわ」
高等部に上がって学園の女王に選ばれた咲姫は、学園祭に隆仁と彼の父を招待していた。
「十文字家に、恥かしい」、この咲姫の一言は重かった。
大臣の椅子を狙っている立木信之には、十文字家のバックアップがどうしても必要だったから。そこを踏まえての直訴は、効果抜群だ。
娘の咲姫は、信之氏が大臣の椅子に座るためには欠かせないの大切な宝だ。やがては十文字家の奥様になるこの娘こそ、彼の夢を実現させてくれる政界という名前の付いたチェス盤上のクィーンだった。
その直訴を受けて。私はアッサリと聖エリス女学園から追放され、公立の中学校に転校が決まったのである。感謝カンゲキ雨嵐!
神様に、深く感謝を捧げた。
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