第三章  夜想曲(ノクターン)のように

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 「そう言えば、花音も絵を描くって言ってたな」  思い出して、結婚のプレゼントにしようと決めた。  「花音の画室も建てて遣ろう。きっと喜んでくれる」、花音との暮らしを具体的に構築して居る自分に気付いたのも、あの時だった。  彼の腕に抱かれて、彼だけの女に為った花音を想うだけで。今でも身体が熱くなる。  初夜の夜具の上に。花音が残した初めての徴。  白椿の様な肌をピンクに染めて、彼の愛に応えたあの夜の花音。  「何故、僕を殴り倒して逃げたのか」、疑問は何時もそこに行き着く。  何か大事な記憶が、チクッと頭を掠める。  だが手を伸ばすと、何時もスッと消えてしまう。  苛立ちが隆仁を包んだ。  「隆仁様。お会いしたいと言って、若い女性が訪ねて見えましたが、如何いたしましょう」  若い家政婦が聞きに来た。  如何いう訳か。彼の苦手な老女の方はこのところ父の傍にいて、こっちには来ない。  「名前は聞いたのか」  「はい。北野絹子様と伺って居ります。花音様のご友人だとか」  僕は慌てて立ち上がると、通すように言い付けた。  その北野絹子は見た目にもハッキリと、水商売と分かる女だった。着ている着物やバックから押して、何処かの高級サロンのホステスと言った処だろうか。  ドアから入って来た女性にソファーを勧めて、僕は向い側の椅子に腰を降ろした。  「花音からこれを預かって来ました」  一万円はしそうな高級な手刺繍の白いレースのハンカチに包んだ指輪を僕に差し出して、睨んでいる。  「絹子さんでしたね。花音は何処ですか」  当然の質問だろう。絹子と名乗る女が持って来た指輪は、教会の祭壇の前で花音の指に嵌めた母の指輪だ。  「このクズ男が。よくも花音をあんな目に会わせてくれたわね」  低い声で憎々し気に、僕に言葉をぶつけて来た。  「それを言うのは僕の方だろう。初夜に夫を殴り倒して出ていく妻が何処に居るんだ」  「花音は何処だ」
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