第五章  “エチュード第3番・ホ長調” を、ぶっ飛ばせ

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 「花音」  隆仁の口から漏れた音はそれだけだったのに、花音は怯えを感じて身体が震えた。  「怖い」  ビジネス鮫の隆仁を、花音は初めて見た。  眼差しのキツサは、以前に知っていた比では無い。  「見つけた。逃がさない」 (こんな商談などを、高嶋次郎とチンタラやっている場合じゃない。ビジネスなんか後回しだ)  「高嶋さんの条件は、全て受け入れる。だから今日の商談は終りにしたい」  席に戻ると、サッサと商談を終了。  再びバーカウンターに歩み寄り、花音の手首をキツク掴んだ。  隆仁は花音を見詰めたまま、絹子に言い渡した。  「花音を僕に渡して貰おう。彼女とは決着をつける必要があるんだ」  固まっていた絹子が、ハッと我に返った。  「待って!、私の店で勝手な真似は止して下さいな」  絹子と隆仁の睨み合う姿に、高嶋次郎が更に困惑して、苦しそうな息を吐いた。  花音はその様子から、この商談の力関係を察した。  「絹ちゃん、良いのよ。私と隆仁さんは、何時かは話し合わなければいけない関係を結んだと。わたしも認めているの」  隆仁の視線を受け止めて、微笑みをやっと作った。  「隆仁さん。支度をするので、少し待って貰えますか」  静かにカウンターから出て、従業員用のドアに向かう花音を、途中で捕まえた。 (この手口で、またしても逃げる気かも知れない。逃がさない)  「このままでいい。一緒に来てくれ」  強引に捕まえて、十文字家の車を呼んだ。  父に知られる事などもう如何でもいい。花音を逃がさない事の方が、優先事項だ。  花音を車に押し込むと、マンションに向かった。
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