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「花音」
隆仁の口から漏れた音はそれだけだったのに、花音は怯えを感じて身体が震えた。
「怖い」
ビジネス鮫の隆仁を、花音は初めて見た。
眼差しのキツサは、以前に知っていた比では無い。
「見つけた。逃がさない」
(こんな商談などを、高嶋次郎とチンタラやっている場合じゃない。ビジネスなんか後回しだ)
「高嶋さんの条件は、全て受け入れる。だから今日の商談は終りにしたい」
席に戻ると、サッサと商談を終了。
再びバーカウンターに歩み寄り、花音の手首をキツク掴んだ。
隆仁は花音を見詰めたまま、絹子に言い渡した。
「花音を僕に渡して貰おう。彼女とは決着をつける必要があるんだ」
固まっていた絹子が、ハッと我に返った。
「待って!、私の店で勝手な真似は止して下さいな」
絹子と隆仁の睨み合う姿に、高嶋次郎が更に困惑して、苦しそうな息を吐いた。
花音はその様子から、この商談の力関係を察した。
「絹ちゃん、良いのよ。私と隆仁さんは、何時かは話し合わなければいけない関係を結んだと。わたしも認めているの」
隆仁の視線を受け止めて、微笑みをやっと作った。
「隆仁さん。支度をするので、少し待って貰えますか」
静かにカウンターから出て、従業員用のドアに向かう花音を、途中で捕まえた。
(この手口で、またしても逃げる気かも知れない。逃がさない)
「このままでいい。一緒に来てくれ」
強引に捕まえて、十文字家の車を呼んだ。
父に知られる事などもう如何でもいい。花音を逃がさない事の方が、優先事項だ。
花音を車に押し込むと、マンションに向かった。
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