第五章  “エチュード第3番・ホ長調” を、ぶっ飛ばせ

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 抱き上げてベッドルームに連れて入ると、ベッドの上に降ろして身体を押さえ付けた。  三年前の二の舞は御免だ。  蝶ネクタイに白シャツ姿の花音は、物凄く美味しそうに見える。 「…・話し合うのじゃ…無かったの」  必死で抵抗を続けるから、息が切れて苦しそうに喘ぐ花音。  「君は甘いね。やっと取り戻した僕の妻だからね」  「覚悟してくれ」  (言われてやっと、隆仁の狙いに気がつくなんて!)  私は何て間抜けだったのだろう。黙って付いて来てしまった。  隆仁が独占欲の強い苛烈な性格なのは、立木の家でも散々見てきた筈だったのに。  此処は咲姫との関係を思い出させて、男の面子なんて捨てさせてやる。  何と言っても、他の女を抱いた後で・・咲姫の名前を囁いた男だ。  「私を意地で抱いたりしたら、咲姫が悲しむわ」  言ってやった。  息を呑む隆仁。  また伸し掛かって来るから、言葉が足りなかったらしい。  「抱いている女が誰か、チャンと解ってからにしてッ」  もう一度、きつく言ってやった。  隆仁が身体を起こして、私の顔を覗き込んだ。  また抱き締めて、髪に顔を埋めるから。  身体が凍りつく。  あの夜の再現は嫌だ。  「いやッ、放して」  「二度目なんて・・許さないんだから」  涙声で僕を詰る花音。  また激しく抵抗を始めた。  動けない様に、強く抱き締める。  「花音」   ・・  「僕の花音」  呟いて、更に強く抱き締めて来る隆仁。  (これ以上、隆仁の腕に力が入ったら・・骨が砕ける)  「僕のものだ」  「今からまた、僕だけの花音になる」  勝手に震える声で宣言すると。。断固として私を抱いた。  何度も、私の名前を呼びながら。  ワタシを抱いた・・・
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