第五章  “エチュード第3番・ホ長調” を、ぶっ飛ばせ

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 朝の薄い光の中で。。目覚める。  身体を包んで、緩く抱いている、誰かの腕。  「ココはどこ?」  戸惑いながら横を見て、赤くなり。  それから、蒼くなった。  裸の隆仁が、隣で眠っている。  目を閉じて、規則正しく呼吸する裸の逞しい胸。  私の身体に触れている裸の隆仁の身体を感じて赤くなり、昨夜の私と隆仁を思い出して、また蒼くなった。  「また、遣ってしまった」  正直なところ、そう思った。  (困った。如何しよう)  隆仁が突然、眼を開いた。  (不安だ。何て言うだろう)  隆仁の顔に浮かんだ少年のような満面の笑み。  私を胸の上に抱き上げて、頭を両手で包むと引き寄せた。  ディープなキス。  唇が離れて、ワタシを見つめる。  「また、僕だけの花音だ」  そのまま抱き締めて腕の中に包むと、宣言した。  「今日は忙しいよ。婚姻届けにサインをしたら、次は結婚式の準備だ」  隆仁は一人で張り切っている。  (何が何だか分かんない。コイツはどういう積もりなんだ)  『計画は第二段階だ』  『必ずこのまま、押し切ってやる』  ペントハウスには通いの家政婦を置いているが、今日は休ませた。  絹子の店から連絡済みだ。  (花音が、恥ずかしがるといけない)  「シャワーを使っておいで。その間に、食事の準備をしておくから」  料理なんてした事はないが、レトルト食品を買ってある。  花音は隆仁の前で、裸のままでいるのが恥かしくてたまらなかった。  男と関係を持ったのは、一度だけ。  夜の闇に抱かれて、隆仁に身を任せたあの時だけだ。  隆仁はさっきから慣れた感じでバスローブに身を包み、部屋の中を歩き回っている。  (よっぽど、こういう事に慣れて居るらしい)  隆仁は自分の興奮を、花音に気取られないようにするのに必死だった。  胸が早鐘の様に鳴っている。  【昨夜また、花音を抱いた。一晩中、胸の中に包んで愛した】  「もう僕のものだ!」 、胸が熱くなる。
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