第五章  “エチュード第3番・ホ長調” を、ぶっ飛ばせ

11/21
前へ
/123ページ
次へ
 当然、避妊なんてしなかった。  ベッドの上で恥ずかしそうにシーツにくるまっている、花音の恥かしそうな姿。  白い肌をピンクに染めて。  でも、美しすぎる。  三年前から見たら、驚くほど美しくなった。  あまり嬉しくない。  【他の男が寄って来たら、困る。これは僕だけの花音だ】  強い妬心に、もう既に胸が苦しい。  (如何やって、閉じ込めて置こうか)  このペントハウスを“ラプンツェルの塔”にしようと、真剣に考えていた。  花音のバスローブを取って来て、身体を包んでやる。 (これ以上裸でいられたら、食事は抜きだ)  シャワーを使っていたら、台所と思しきあたりでガチャガチャ音がして居たが、次いで何かが割れる音がした。  慌てて駆け付けてみれば、惨劇の真ん中で隆仁が立ち尽くしている。  彼の足下には、割れたカップが散乱。コーヒーも零れて、あっちこっちに散っている。  隆仁のバツの悪そうな顔に、思わず笑ってしまった。  しかめっ面で、笑った私を睨んだ隆仁。  (可愛い)  それから隆仁が私の為に用意した、Tシャツとパンツに着替えて朝食を作った。(着替えが其れなりに用意されたクローゼット。昨日、偶々出会ったから、連れて来たのでは無いらしい)  いつも山寺でやっている様に、ご飯を炊き味噌汁を作る。  冷蔵庫の中から干物を出して焼き、だし巻き卵を作った。ついでにサラダも用意して、隆仁を呼ぶ。  でも花音は、隆仁がこんな田舎料理を食べてくれるか、とても不安だった。  栄達師匠と毎朝、朝餉に食べているより品数は多いが、贅沢に慣れて居る隆仁の口に合うとは思えない。  その隆仁は。母が亡くなってから久しく食べる事が出来なかった家庭料理に感激した。(手早く作ったのに、なんて美味しいのだろう)  家庭の匂いが満ちている料理だ。  美味しそうに平らげると、嬉しそうに笑う隆仁。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

480人が本棚に入れています
本棚に追加