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その栄達の耳元で、花音がまた囁く。
「このお腹の子供は、まだ一人目だよね。師匠」
「隆仁に、三人は産ませてくれって頼んだのは、師匠だよ!」
笑顔で続ける言葉に、栄達がまた苦笑した。
「チャンと見守ってくれなきゃだめだじゃない。師匠の責任は重いんだからね」
「仕方が無いのぉ」、栄達の顔に笑い皺が浮かぶ。
「これじゃァ、花音が三人目を産むまで、山寺を出られんじゃないか」
栄達は嬉しそうに溜息をつくと、もう少しここにいるしかないと観念した。「三人目を産むまで、ココにいるしかないかのぉ~」・・と、嬉しそうに溜息をついて見せる。
本山には、いつでも帰れる。「もうちょっとだけ、この娘たちを見守ってやるのも御仏のお導きと言うモノか。仕方がないのぉ~」と、自分に言い訳する声が心の中に響く。
笑い皺がさらに深くなって、栄達の幸せそうな笑い声が春の山に吸い込まれていった。
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