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「私が小学生の頃、お母さんは薬物依存症になってしまったんです」
「依存症?」
「はい。酷い時は『薬をくれ!』とせがまれたり、暴力を振るわれたことだってありました。なので、体も心も、傷だらけです。えへへ」
「お前……」
まさか、俺と似たような過去を辿っていたのか?
あまりにも偶然すぎる展開に戸惑いを隠しきれないが、それでも彼女は明るい声で笑って気丈を振舞っていた。
「でも、未だに怖いんです……」
「怖い?」
「はい。人が……」
「人が、どうした?」
彼女は静かに答えると、受話口からはグズッとすすり泣く音が聞こえてくる。その声は、いつも笑顔でみんなに話しかけている様な優しい声ではない。
俺の電話からは、か細くて、弱々しくて、まるで子供の様に泣きじゃくる声が聞こえてきた。
「実は私、小、中と、クラスメイトから苛められたことがあるんです」
「苛め、られた?」
「はい。朝来たら、机に『死ね』と沢山彫られていたり、上履きに水を入れられたり、画鋲を入れられたり、陰口を言われたり……」
「それ、酷いな」
相槌を打つと、彼女もうん。と返事をし、話に耳を傾ける。
「なので、それ以降、人がとても怖くなってしまったんです」
「なるほど……」
「はい。今でも目が沢山ある怪物が、一斉に自分を見ているかの様な感じに見えてしまって……」
「それ……」
この時一瞬言葉を失ったが、気持ちは分からなくもない。
俺はみんなから白い目で軽蔑するかの様に見放されてきたが、ルリは違う。
一度は「友達になろう」と言ってきた奴らが彼女を利用し、平気で裏切って傷つけたんだ。
そのせいでルリは、極度の人間不信に陥ってしまったと思うと、とても腹立たしい。あの時、俺が彼女の近くにいたら……。
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