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 静かだ。でも、とても心地が良い。  黒い上下のツナギに身を包んでいる俺は今、小さな空き倉庫の中にいる。  ちなみに床はコンクリートでできていて、所々に赤黒いシミが付着しているが、元々ついていたものである。決して俺が付けたワケじゃない……、はずだ。 「……」  俺はある女性の近くにしゃがむと、彼女をずっと見つめていた。  彼女はというと、横向きにグダッと倒れていたが、日本人形の様に髪が長くてとても綺麗な横顔だ。  服装は桃色のパーカーに、七分丈のデニムジーンズ。足元はお洒落なサンダルを履いている。 「ルリ……」 「……」  思わず名前を呼んでしまったが、応答がない。彼女は虚ろな目をしながら、倉庫の扉に視線を向けていた。  両手には女の子らしいピンク色のフレームが付いた眼鏡を大事そうに握りしめているが、レンズは粉々に割れている。 「ルリ……あのな……」 「……」  俺は彼女の痣だらけの頬を優しく撫でる。触り心地は絹の様に滑らかで美しくて、ずっと触れていたい。 「……」  しかし、彼女は扉に視線を向けたまま、微動だにしない。  問いかけた質問にも答えてくれず、倉庫の中は静寂な空気に包まれていた。 「ルリ?」 「……」  なので、左右に揺さぶったりしてみたが、彼女は全く起きないままだ。 「起きて。もう、朝だよ……」 「……」 「じゃあ、何か食べよっか。何食べたい? ねぇ……」  それでも俺は、子供の様に健気に彼女の黒髪を優しく撫でたり声をかけたりするが、一向に反応を示さない。 「……」 「ルリ……」  すると、俺の目からは何故か、一筋の涙が零れていた。 「何で……何で……」
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