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「あわわ……」
「あららららら!」
その時、俺がいる場所から反対側の所で騒がしい声がしたのでそっとコンテナ越しで覗いてみる。
「大丈夫ですか!?」
「こりゃぁー、大変だねぇ」
すると、パートのおばちゃんと、ピンク色のフレームが付いた眼鏡をかけた女性が、目を真ん丸くしながら驚いていた。
「ほうき、持ってこないとですよね」
「そうねぇー。じゃ、私がほうき持ってくるから、『ルリ』ちゃん待ってて」
「あっ。はい。分かりました」
パートのおばちゃんはそう言い残すと、ほうきを持って来るためにその場を離れていく。
「あの、こっちは気にしなくても大丈夫ですよ! 私達がやっておきますんで!」
「そっか……」
「はい!」
そして、流れゆきで二人きりになってしまったが、女性経験が皆無な俺は、どう話せばいいか分からず、かなり緊張してしまった。
「それより、早く持っていかないと、粉物が……」
「あっ! そうだ! えっと、ありがとうございます!」
「いえいえ。じゃあこれ、少し押しますね!」
「あっ、あぁ……」
戸惑いつつも言葉を返すが、彼女はと言うと、笑顔を絶やさないまま、反対側からコンテナを軽く押している。
「えっと……、穴が空いてしまった所、無事だといいですね」
「あー。確かにそう、ですね。あはは……」
そして、彼女は眼鏡越しから目を微笑ませながら言うと、足早にその場から立ち去ってしまった。
まぁ、お陰で無事、粉物を指定の場所まで運ぶことが出来たし、ラッキーな事に、たまたま上司も会議で不在だった為、怒られることもなく済んだ。
でも、俺はそれ以降、ルリのことが気になってしまい、彼女とすれ違う度に自然と目で追うようになってしまった。
それに、ルリはどこに行っても、笑顔で優しく、みんなに接している。俺はそんな彼女の可憐な姿を見る度に、疲れが一気に吹っ飛んでいた。
あと、彼女を知りたいと思えば思う程、その魅力にどんどん惹かれていく自分がいる。
だから「彼女は気になる存在だ」と言う自覚はしていた。
そして、気がつけば用もないのに彼女がいる部署に足を運んでは、色んな人から情報を聞きだそうとしている。
そう。俺の脳内は、知らない間に『ルリ』と言うワードで埋め尽くされていたのだ。
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