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*  そんなある日の話。  俺はたまたま冷凍庫に必要な物があったので、黄色い鎖を引っ張って扉を開けた。  ちなみに扉はとても頑丈にできており、中にも白くて太い縄みたいな紐がぶら下がっている。その為、扉を開閉するにはどちらかの紐を引っ張らないと開かない仕組みになっていた。  まぁ、その為、誰も来なければちょっとした『秘密の場所』にもなるが、寒すぎるのが欠点だ。 「あー。さみぃ……」  俺はぶるぶると体を身震いしながら必要な物を探そうと中へ入る。 「……あっ」 「えっと、野々谷さん?」 「あぁ」  すると、俺の目の前に、ピンク色の眼鏡をした『ルリ』が何かを探していた。 「お疲れ様です!」 「お、お、お疲れー」  彼女は相変わらず笑顔で挨拶してくるが、なんだか照れくさい。なので、戸惑いながらも言葉を返す。 「えっと、まだ出来てないみたい」 「何が?」 「んーっと、春巻き!」 「頼んでたのか」 「うん! 美味しいって評判の奴なんだけど、まだ出来てないみたいなんだ」 「ふーん……」  しかし、あまり興味が無い話題だったので素っ気なく返事をするが、彼女はと言うと、終始ニコニコと笑いながら明るく話し続けている。 「そう言えば、野々谷さんも何か頼んだりするんですか?」 「俺!?」 「はい! 野々谷さんも春巻きとかコロッケとか、何か頼んでるのかなーって思って……」 「いや。油っこいの、苦手なんだよね」 「そうなんだ! ふーん……」  そう言うと彼女は突然、俺の目をじーっと見始めた。 「……」 「えっ!?」  何だコイツ!?  俺もつられて見つめ合ってしまったが、彼女の澄んだブラウン色の目がとても綺麗で、思わず惹き込まれてしまう。 「な、な、何か、俺の顔についてる?」 「……別に。ただ」 「ただ?」 「その、野々谷さんの目、真っ黒くて綺麗だなって思って。つい……」 「えっ……」 「だからその、ずっと見ていたかったんです! ただ、その、それだけ!」  彼女は照れくさそうに俺からそっと目を逸らしながらそう言うと、意味深な言葉を残し、そそくさに紐をひいて出て行ってしまった。
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