piano

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ショパンの『別れの曲』を弾いた。 いつも通り、アップした。 コメントがどんどんついていく。 ーこの曲知ってる!良い曲だよね!!- ーラベル?この曲すき!- ーブラームスじゃなかったっけ?- 「……ショパンだよ」 溜息を吐きながら、コメントを流し読んでいく。 結局、ピアノの曲が『なんとなくいいから』、動画を見ていたのか。曲を聴いていたのか…… そう思うと、なんとなく気怠くなった。 『新着メッセージ1件』 うんざりしたタイミングで、『sara』からのメッセージ。 ー弾いてくれてありがとう。おかげで、安らかな気持ちで手術に臨めそうですー どうして、『別れの曲』で安らかな気持ちになれるのか…… (それって、手術の前から諦めちゃってるって事じゃないか) そんな『sara』の返信に、私は苛立ちを隠せなかった。 荒々しくキーボードを叩く。 ー私も、リクエスト。ガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』を。 明るく陽気な曲。 『sara』にはこの曲を是非とも弾いて欲しかった。 この曲は青い。 直訳、解釈はシンプル。 青いとは、色でもあり、『若い』という意味でもある。 若い、つまり、まだまだこれから。 先はあるんだ。まだまだなんだ。 私は、それを言いたかった。 しかし。 ーもう、ピアノは弾けないんです。それに……- ここで、一度メッセージが途切れた。 私はメッセージの確認画面のまま、『sara』のもう一通の答えを待った。 (言うな、言うな、言うな……) 絶対に答えて欲しくない言葉。祈るように何度も脳内で繰り返す。 『新着メッセージ1件』 通知が来る。 大きく深呼吸してから、私はメッセージを開く。 (言うな、言うな……!) しかし。 ーもし、弾けたとしても、その曲だけは絶対に、弾きませんー 非常な一文。 私が一番見たくない文字の羅列が、私の目に飛び込んで来たのであった……。
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