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それから、1週間、2週間と、時が流れていき……。
『sara』は掲示板に書き込まなくなった。
動画も、アップしなくなった。
一度だけ、
ーお元気ですか?-
とだけ、メッセージを送った。
しかし、返信は返ってこなかった。
かくいう私も、『別れの曲』以降は動画をアップしていなかった。
ーしばらく多忙のため、リクエストの受け付けはお休みしますー
掲示板にはこう告知して、なんとなくサイトを眺める日々が続く。
動画も投稿しないし、リクエストも受け付けていない。
ピアノ好きな人が、動画をアップしてはコメントが飛び交うこのサイト。
それをただ、毎日の日課のように流し読む。
文字の羅列の中に、『sara』の名前を探すため。
しかし、何日経っても、その名前を見つけることは出来なかった。
今では、たった1曲で掲示板の住民を虜にしたはずの『sara』の名前すら忘れられて、最初から存在していなかったかのように掲示板は流れていく。
私はそれが寂しく、悲しかった。
(あの『愛の悲しみ』は、あんたらに何も残さなかったのか……。)
私の心を動かした、繊細で、悲しみに溢れたあの曲。
私はあの日から、あの1曲から……
自分でも気づかないうちに、『sara』に恋をしてしまっていたのかもしれない。
しかし、ここはSNS。
直接顔を見ながらやり取りするわけでもないし、声を聞くわけでもない。
生活の背景など分からないし、どこにどのように住んでいるのかも分からない。
『sara』はピアノを弾く。それも、情感豊かに美しく弾く。
実際、私はこれしか『sara』の事を知らない。
「……今頃、どうしているのかな……。」
パソコンの画面に向かって、私は力なく呟いた。
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