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監獄の城下町
鼻にお酢をぶち込まれたような空間で、二人の尋問官に殴られ続けたぼくは、出発時よりも更にみすぼらしい格好になっていた。
目隠しはずり落ち、右目は腫れ、最後に食べたどろどろの塩粥がまるで前掛けのようになってぼくの一部になっていた。
ぼくは気を失ったふりをして、久しぶりの睡眠にうつつをぬかしながら時が過ぎるのを待った。待っている間、二人の尋問官は終始不機嫌だったことは間違いない。
これ以降の記憶はどうでもいいことばかりだったせいかよく覚えてない。
文字を読めないので、蛇の落書きのようなものが書かれた紙を永遠と観察してから、周囲に言われるがまま手形を押した。そしていま、ぼくはここにいる。
「貴方がハンスさんですね?」
ここは教会だろうか。
目の前にはぼくの名前を語る聖女の真似事をしてる少女。
その後ろには黄金の十字架と、杭か何かで貼り付けにされているおっさんのステンドグラスがやたらと眩い。これまで日陰で生きてきたぼくにとっては、あまりにも眩すぎた。
「あんた。だれ?」
「わたしに名前などありません。……ただ、皆様からシスターって呼ばれています」
「じゃあシスター。さっそくで悪いけど縄を解いてくれないか。皮膚が裂けそうだ。あとすごく眩しい。」
「それはできないわ。どれも今の貴方にとって必要なものですもの」
「この嫌味ったらしい光も、ぼくには必要なのかな?」
「ええ」
ただの嫌がらせだとしか思えない回答に、ぼくは目を細めながらシスターを睨みつける。
それを見たシスターは動じることもなく、さらに会話を続けた。
「誤解しているようだけど、決して嫌がらせでそうしているわけではないのよ?」
「へいへい」
「貴方はこれから日陰ではなくて、太陽と共に目覚め、太陽と共に眠る生活をするのよ?こういうのに慣れておいたほうがいいわよ」
少女の戯言にぼくは吹き出しそうになりながらも、それをなんとか堪え、どうにか主導権を握ろうと会話を続けた。おままごとすら卒業できていなさそうな少女なんかに主導権を握られたら、ぼくは世界中の人間から笑いものされるだろう。それだけは避けたかった。もしそうなったら、ぼくはもう生きていけない。
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