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世は神と人とが混在し、様々な種族が共存する時代。
世界は東の島国を中心に大規模な戦争へと発展する。
少し話をしよう。昔あった壮大な神話の話を。
かつて世界を獲らんとした侵略者がいた。名を《真蛇羅》と言った。真蛇羅は東の島国を守る土地神にあと一歩の所で惜敗した。男と共に戦った者達は理想を潰え、神の後光に精神を浄化され戦意を喪失した。欲に駆られた者達は行ってきた暴挙に頭を抱え、次々と崩れ落ちた。
神の名は《梵天》といった。梵天はあらゆる生命に平和と幸福を齎し、一方で侵略者達へは破壊を与えた。彼の前では誰もが平等になり、世界の均衡は保たれた。
誰もが苦しまない世界。
彼から光を賜ることで、戦乱の世は平和な世界へと姿を変えた。
だが話はそこで終わらない。誰もが幸せな世という言葉に偽りはない。が、人は欲することを簡単に諦められない。欲に対する執着が薄れただけであり、数百年もの時を経ればまた同じことを繰り返すであろう。長きに渡り国の均衡を保ってきた梵天の力は、真蛇羅との戦闘で徐々に衰え始めていた。
真蛇羅は悪を統率する、云わばカリスマ性に長けていた。褐色の肌に赤銅色の瞳。その瞳は欲に染まっても濁ることをしない。外見は異端とも揶揄されたが煌く白髪を靡かせ、理想を豪語するその威厳と自身に満ち溢れた指導者のそれに皆が目を奪われた。老若男女問わずその美しい容姿に魅了された。
人は輝くものに憧れる。そしてそれは身近である程に理想となり、そう在りたいと願望にとり憑かれる。梵天は神として人々に崇められこそするものの、一個体として憧れられることはない。なれないからこそ高尚なものへ存在を昇華される。高潔な在り方は時に眩し過ぎる。何れ信仰は薄れ、忘れられていくのだ。
真蛇羅は人々に衝撃を残した。恐怖、羨望、憎悪、畏怖。平和しか知らない無知な国民に忘れられない鮮烈な記憶を植え付けた。
梵天は真蛇羅を遠く離れた孤島に隔離し、島の独房に閉じ込めた。牢に入れられた後も決して彼の瞳から力が無くなることはなかった。
神の梵天でさえその力強さに奥する程に。
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