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数百年、倭国は平和そのものだった。人々は過去の争いを忘れ穏やかな日々を取り戻しつつあった。陰では平和な倭国を退屈と称して国を去る者もいた。
梵天は恐れた。国を去ることは梵天の加護を捨て、嵐の中を赤子が突き進むようなものだ。梵天は領土である倭国周辺の万象は見通せるものの、一度信仰を捨てた国民を見守れる程万能ではない。裸のまま外界でのたれ死ぬだけだ。信仰は徐々に薄れていった。
時折あの孤島を視る。
孤島には梵天の結界が張り巡らされ、外界との干渉を遮絶している。今のところ目立った変化はない。
梵天には未だ沈黙を守るあの孤島が不気味で仕方なかった。封殺されたあの島は、人を寄せ付けない結界の気配にかかわらず来る者を拒まない雰囲気さえある。
梵天の正妻の子が産まれた。名を《弁天》と、そして後妻が遅れて《帶臥》を産んだ。後妻は帶臥を産んですぐに亡くなったが、二人の男児は健康体そのものだった。
梵天は国を息子に譲る決意をする。そしてその準備を整えるべく動いた。近い未来訪れるであろう大厄災へ対抗するため、息子に自身の祈りを託して。
さて、ここからは彼らの歴史に語ってもらおう。
私が誰かって?それは貴方がこの物語を追って行けば、何れ解ること。
では、
暫しの別れだ。
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