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そこは地獄だった。
何百年とかけて辿りついた夜刀神の巣は崩れ去っていた。
三日かけて辿りついた集落は墓場と化していた。
血が建物の壁を染め上げ、ぐったりと力ない死体が其処彼処に散らばっていた。それらは身体の穴という穴から血液が吹き零れ、白眼を剥き出しにして死んでいた。
ゆっくりと村の道を進んでその惨事を見て回れば、村の隅に白髪の少年が白髪の少女の手を握って立ちすくむ姿が見つかった。
少年はカタカタと身を震わせて、反対に少女は全く身動き一つせず佇んでいた。
少女の目は虚ろで光を映していない。
少年は刃物を握りしめ、そして…
「やめろ」
自らの目を刃物で抉り出そうとしているところだった。
思わず発した声に、梵天自身が一番驚いていた。
見ていられなかった。
自分の目の届かない場所は、こんなにも世界は幸福とは無縁だと突きつけられたような気になった。少年は静止した梵天を黄金と赤銅色の混濁した瞳で睨む。
「これをやったのは、お前か?」
少年は俯き、小さな聞き取れないような声で「うるさい」と罵る。
呪の類に耐性がなければ、例え制御できていなかろうとこの少年の瞳から発せられる呪詛には耐えられないだろう。噂に聞く、伝説上のものと詠われた《蛇眼》とはよくいったものだ。瞳は夜刀神だと一目で解らせるには十分で爬虫類のそれだった。視力は弱いらしく光は鈍く映っているがその効力は絶大なものだ。
「同族を、殺したのか」
一族を重んじる夜刀神を、夜刀神が殺したというのは信じがたい。しかし子供は真実を語る。その瞳に嘘偽りはない。
「好きで、やったんじゃ…ない」
虚ろな目の少女の小さな手をぎゅっと握りしめて言った。
神であり、あらゆるものに耐性を持つ梵天に自身の瞳の呪が通じないと解ったのか少年から敵意が消えた。
「この目が、」
「この目があるから…ッ!!」
再び切っ先を目へ突き立てる前に梵天が距離をつめ、それを地面に突き落とす。
少年は少女を守るように抱きしめて梵天を見上げた。
「私と一緒に来るか…?」
差しのべられた手は数刻宙に留まった。
それでも梵天は、少年がその手を取るまでひたすらに待った。
日が落ちてまた昇る頃、漸く無言で差し出された少年の手は渾身の力で梵天の手を握った。爪が皮膚に食い込むほど強く。
しかし、握る強さは触られているだけだと錯覚するほど弱かった。
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