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第一話 ジェットばあちゃんは日本魔女
夜のビルの中で、おばあちゃんが座布団に座って猛スピードで廊下を飛んでいる。
こんな都市伝説になること間違いなしの現象を見せつけられてもなお、俺は彼女の後を追う以外に選択肢が無かった。
「――ふおーっほっほっほっ! このワタシのスピードについてこれるか若者よ!」
暗い廊下におばあちゃんの笑い声が響き渡る。
光源は柿色の鬼火とヘッドライト、それから窓の外でごくわずかに灯る深夜の街の光のみ。
雑居ビルにしては広く、オフィスビルにしては雑然とした建物。
この真夜中の砦は、バブル経済という泡沫の夢、その残滓がかたちを変えて残った場所。
新しいのにどこか古ぼけた懐かしいニオイは、時代の流れに取り残されながらもしぶとく生きる自分達をなんとか受け入れてくれるかのようだった。
「待ってくださいよ、師匠! せめてスピード落として!」
「嫌なこった!」
この廊下を飛ぶおばあちゃんが自分の味方だというその事実だけで、怪異は一気にギャグに変わる。
俺の祈祷師稼業の師匠である老婆、苅間 たえこ は必死の嘆願にもいっさい取り合わなかった。
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