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電信柱にくちづけを
「大っ嫌い!」
バチコーンと派手な音と共に、アケミのビンタが僕の頬に炸裂したのは夏の終わり頃。ほっぺたに赤々と残る不名誉な紅葉が、秋の訪れを告げた。そして終わってしまった夏はアケミをこの部屋から何処かへ連れていく。
「荷物は来週取りに来るから」
この言葉を最後に僕らは別れた。二人で十三ヶ月過ごした部屋は、彼女の荷物が残っているにもかかわらず、随分広く見えた。僕の心だけ夏に置いてきぼりのまま、季節は巡る。
窓から差し込む夕焼け小焼け、カラスの鳴き声だけが虚しく木霊す。
アケミが出て行ってたったの一時間、早くも喧嘩ばかりだった彼女との、数少ない楽しかった思い出ばかりを思い出す。ギシリと胸の錆びた歯車が疼いた。もう壊れそうだった。
カァーカァーカァー、カラスは鳴く。
カァーカァーカァー(なかないでなかないで)。泣いてなんかいないやい。
自業自得とはよく言ったもので、まさしくこれは僕の自業自得による結末なのであるのだから救いようがないのだ。
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