電信柱にくちづけを

10/23
前へ
/23ページ
次へ
 派手目で、遊んでいそうで、簡単そうな女。それが第一印象である。 「僕さ、自分の悪いところ全部直すんだ」  僕はテーブルに突っ伏した。 「そっかそっか、キミは偉いね。辛かったね」  テーブルにだらしなく突っ伏す僕の頭をナヲコは優しく撫でた。その酒とタバコで焼けたハスキーな声がカラスの鳴き声を連想させる。何故だかとても心地良くて眠たくなる。  酒に酔った僕の記憶はそこまでしかない。 「朝だよ。起きて」  初めて見る天井。見慣れない部屋で目覚める。初めて聴く少女の声。少女は僕の上に跨がっている……なんて言えばイヤらしく訊こえるかもしれないが、少女の躰(からだ)はとても小さく、文字通りに少女であった。 「ママー。おじさん起きたよー」  少女の声にキッチンにいたエプロン姿の女が顔を見せる。いやいや、僕二十代だし、そこはおにいさんだろ! 「頭痛くないかな?」  浅く歪んだクランチボイスに、それが昨日知り合ったナヲコだと気付く。夜はあんなに派手だったのに、今の顔は随分違うものだ。それは所謂(いわゆる)母親の顔ってやつだった。彼女の声は相も変わらず心地よい。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加