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「泊めてくれたんだ」
「起きる前に、化粧だけしておこうと思ったのに失敗失敗」
ナヲコは浅く笑う。連られてナヲコの子供と思わしき少女も笑う。恐らく多く見積もっても十歳にも満たないと思われる少女。
「ココちゃんはお皿並べてきて。キミはシャワーでも浴びてきなよ。まだ仕事まで時間あるでしょ?」
確かにこのままじゃ仕事に行けやしない。お言葉に甘えシャワーを借りることにする。生活感溢れるバスルーム。ナヲコの娘のココちゃんの物であろうアヒルやら、アニメのキャラやらの玩具が散乱している。
「バスタオル置いておくからね」
バスルームを出てバスタオルを使えば凄く良い匂いがした。ナヲコの部屋は居心地が良かった。着替えて新品の歯ブラシを貰い、歯を磨きナヲコに礼を言う。そして玄関で革靴を履く。
「また来てね」
出て行こうとする僕の背中に、ナヲコのカラスみたいな切ない声が後ろ髪を引く。寂しそうな声が出て行こうとする足を止めさすのだ。
部屋に置いてきぼりになるのは案外寂しいものだと、僕はよく知っている。
「いつでも来ていいよ。わたしとキミはもうお友達。来る前は電話頂戴ね」
そう言ってメモに電話番号とラインのIDを書いて僕に手渡す。簡単な女だ。僕はそれを受け取り鞄に丸めて部屋を出る。きっとナヲコとはこれっきりだ。この時僕はそう思った。
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