電信柱にくちづけを

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 会社へ着いた僕が目にしたのはアケミと上司の些細なやり取りだった。ただの何気ないやり取り。上司と部下のただただ当たり前のやり取り。なのに嫉妬に狂いそうになる僕は直感する。近い将来自分はこの会社を辞めることであろう。  会社を辞めていよいよアケミとは他人となって、お互い別々の誰か、恐らくアケミはこの爽やか上司くんと結婚して、僕とのことは忘れるか精々思い出の一ページくらいになって、僕も今のこの胸の痛みが和らいで、いつしか時と共に無くなっていくことであろう。  それがたまらなく嫌だった。  酒がないと眠れなくなった。アケミも僕と同じように、僕を思い出して眠れない夜があるのであろうか。僕のことを思い出して切ない気持ちになるのであろうか。そしていつから僕はこんな醜いことを考える人間になったのであろうか。
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