電信柱にくちづけを

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 アケミが浮気する以前、とっくに終わっていた二人を思い出す。浮気されたのは自業自得なのだ。お互いが自分を優先させたのだ。変わらぬ愛みたいな幻想と、大空を舞うような自由の両方を求め、その矛盾が僕たちの歯車に負荷を与えひび割れたのだ。  カァーカァーカァー(そうだおまえがわるい)。  内緒で借金をした。アケミの財布から金を抜いたこともある。アケミの作った夕食も食べずに夜は飲み歩いていた。そして僕も浮気していた。いつも泣かせていた。いよいよ愛想を尽かされただけだ。  僕とアケミの違いは浮気か本気かの違いだ。  いったい何を被害者ヅラしているんだ、僕は。ナヲコに訊いて貰うときはいつだってアケミを悪者にしていた。  僕は、僕は、僕は生きる価値すらない屑だ。 「ありがとう。わたしたちのこと皆に黙っていてくれて」  缶コーヒーを飲み終えたアケミは、荷物を手早く纏めて僕の部屋を出て行く。僕のコーヒーはまだ残っているのに、また僕を置いていく。また僕の先に行く。
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