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殴られた理由を端的に言えば「僕とアケミが同棲していた事を社内全員にバラしてやる」と、僕が脅したからである。
僕は彼女の弱みを握っている。部下思いの上司のことだから、僕とアケミの関係を知れば、手を引いてくれるかもしれない。アケミはこんな悪女ですって伝えたかった。
そう思っていたのに、彼の人懐っこい笑顔を見たら、結局終業時刻が過ぎても言えなかった。アケミをどうしても悪者にできなかった。……否、どうしてもアケミから見た自分を悪者にできなかった。
退勤のタイムカードを切り溜息を一つ。社内はアケミと上司が付き合っていることが徐々に明るみになり、祝福ムードが蔓延して、僕は今にも吐きそうだ。
こんな風に僕だって祝福されたかった。もっとオープンにしていれば良かった。僕とアケミの十三ヶ月は誰にも知られることなく終わりを迎え、無かったことにされたのだ。アケミは終始、僕とも上司とも目を合わせなかった。
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