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先に惚れた方が弱い。
いつも亜海のペースに乗せられて、翻弄されている自分。
誰かと付き合っていても、誰のペースにも巻き込まれたことなんかなかったのに。
家に帰ったら一人で飯食って、一人で好きに過ごして、一人で寝て。別に寂しいとも思わなかったし、それが当たり前だと思っていた。
実家を出た頃から自由であることを満喫していたはずなのに。
寂しいとか、愛しいとか、そういう気持ちが自分の中にあることも知らなくて、いざ対面してみると戸惑うことも多かったのに。
今は亜海を失うことだけが、ただただ怖い。
膝のぬくもりと頭上に感じる亜海の息遣いが、今ここに亜海が存在していることを教えてくれる。
手を伸ばせば触れられる距離に亜海がいてくれるなら、これからは何でもしてしまうかもしれない。
そういえば、さっきのCMで流れていた所・・・俺も行ったことがある。
確か、小学校に上がったくらいの頃に。
・・・・・・・・・・・・・
ここはどこだろう。
上を見上げても、わざとらしいレンガの模様の建物と、人の雑踏しか目に入らない。
家の近所の公園とはまるで違う。
自分と同じくらいの年齢の子は、片手に風船を持って、もう片方の手は大人とつながれている。
自分もさっきまでは、母親とつないでいたはずなのに。
また迷子になってしまった。
あーあ、また、お父さんから怒られる。
いつものことだけど、憂鬱だ。
ぼーっとするな。
しっかり考えろ。
お父さんはいつもこんなことを僕に言う。
ぼーっとしているつもりもないし、しっかり考えているつもりなんだけどな。
ベンチを見つけて座った。
リュックの中から母親に持たされていた水筒を出して、一口飲んだ。
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