番外編 ある日の偶然

10/14
787人が本棚に入れています
本棚に追加
/453ページ
「あれ?聡、寝ちゃった?」 亜海の声が聞こえた。 夢と現実の区別がつかなくて、勢いよく起き上がってしまった。 「うわ!どうしたの、聡」 目の前には驚いた亜海の顔。 「・・・・夢見てた」 「ふぅん。どんな夢?」 「・・・・なんだっけ?」 「なんじゃそりゃ」 お茶でも飲む?と亜海が立ち上がって、キッチンからペットボトルに入ったお茶を持ってきた。 随分リアルな夢を見ていたはずなのに、何一つ覚えていないのは結構あるあるではないだろうか。 ガラスのコップに薄緑色の液体がなみなみと注がれていく。 「俺さ、前に男女の双子、初めて会うって言ったじゃん?」 「ん?あぁ、そんなこと言ってたね。急にどうしたの?」 「あれ、嘘だった」 「ふぇ?」 「小さいころに会ったことあるの、思い出した」 「へぇー」 亜海が注いでくれた冷たいお茶が喉元を通りすぎていく。 「さっきの20周年のあそこ、昔、両親に連れられて来たことがあるんだよ。小学校に入ったばっかりの頃だったかな?」 「うん」 「で、両親とはぐれたんだよな。そしたら、男の子と女の子の双子に助けられた」 「そうなの?」 「名前も顔も覚えてないんだけど、女の子がかわいかった。たぶん、あれ、初恋かもしれない」 「・・・・・」 亜海が黙ったままだから、不思議に思って、彼女の方をみると、頬を膨らませて俺を睨みつけていた。
/453ページ

最初のコメントを投稿しよう!