800人が本棚に入れています
本棚に追加
駅から10分の道のりを、飾り気のないパンプスを踏みしめて歩く。
夏の昼間の熱を吸ったアスファルトが憎たらしいほど熱い。
一刻も早く、素肌にまとわりつくストッキングを脱いで、シャワーを浴びたい。
傾斜のきつい坂を上りながらそれしか考えられなくなる。
額に浮かんだ汗をハンカチでぬぐいながら、先を急いだ。
鉄筋コンクリートの比較的新しい建物が目の前に現れる。迷わず歩みを進め、駐輪場の隣にあるらせん状の階段を登って、3階まで上がった。
一番奥の部屋の前で立ち止まり、インターホンを鳴らした。
インターホンから、
「開いてる」
と声がして、茶色のドアを開けて、中へ入った。
廊下兼台所に飲み物を取りに出て来たやせ形の男に、
「シャワー借りていい?」
と聞く。
「どうぞ」
と、男は私を一瞥し、手に持っていた炭酸のペットボトルを開けた。
「あ、これ、冷蔵庫に入れといて。一個あげる」
と、飲み物が入ったペットボトルのコンビニのレジ袋を流しの上に置き、脱衣所へ入る。
手早く服を脱いで洗濯機の上に無造作に置き、ストッキングを丸めてカバンの中に突っ込む。
私が来る前にここの家主もシャワーを使ったのだろう。換気扇では吸い取れない湿気まみれで今さっき水浸しになったであろうバスルームに入り、髪留めクリップで髪をまとめた。
最初のコメントを投稿しよう!