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「……おい、大丈夫か? そろそろ帰るぞー? おーい?」
肩を揺すられる。
耳元で大きな声が聞こえる。
次第に微睡みから意識が帰ってくる。
目を、開いた。
記憶が混乱している。
一体どれ程の間、眠っていたのか。
時計を見る。
終電の時間は、過ぎていた。
声を掛けてくれた奴に、返事をしてみた。
「あ、あぁ悪いね。そうだ。眠ってしまったから、タクシー代は持つよ」
声を出せた。
濁っていく意識が、先程までの出来事を拒絶する。
そうだ、きっと、夢を見ていたんだ。
本能が、思い出そうとする事を、避けた。
さっさと忘れてしまえ。それがいい。
「そうかい、悪いね。助かるよ」
いつも通りの奴だった。
あれはなんだったのだろうか。
まるで何かにとり憑かれたような……やめやめ、やめだ。夢だったのだ、全部。
自分に言い聞かせる。
暫くして、御代を奴が払い終えると出口へ向かう。
おやすみなさいと店員に声を掛けた後、何気なく振り返り、自分の席に置いてあるグラスを見た。
残された酒が、碧く、輝いているのを見、僕は戦慄し、足早に店を出た。
グラスの底で、何かが蠢いていたらと思うと……。
暫く酒は、飲めそうにない。
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