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「……そうだ、今日は趣向を変えて、怖い話をしよう。いい気分転換になる」
唐突に声色を変えて、奴はそんな話を切り出した。
「……なんだよいきなり。まぁ、たまには話を聞く側もいいけどさ」
「ふふん、そうかい。それじゃあ聞いてくれ。これは友人の友人から聞いた話なんだが……」
「お、なんだ、実話系か?」
残念ながら僕はその手のホラーに非常に詳しい。
小学生の頃から学校の怪談をはじめとする邦画ホラーを見漁り、高校を卒業する頃には洋物のカニバリズムなどのB級、C級ホラーにまで手を伸ばす程だ。
因みに最近は都市伝説を主体とした日常でも起こり得るようなものを題材とした、所謂実話系ホラーにハマっているところだ。
つまるところ、守備範囲である。
「あぁ、そういえば、君はそういうの詳しかったね。だが、今から話をするのは実話「系」ではなく、「実話」さ。最も、俺が体験したわけではないから、やはり説得力はないよね。まぁいい。聞いてくれ」
ケラケラと笑う奴を僕は初めて見た気がする。
今日はどうやら些か飲みすぎているらしい。
そういえば、学生からの付き合いではあるが、奴の仕事については触れたことがなかった。
今度飲む時は、こいつの話を聞いてやるのも悪くないな、そう思慮していると、奴は穏やかな口調のまま続きを語り始めた。
「そいつの会社は結構人使いが荒くてね。まぁ日本のブラック企業なんかに比べれば随分マシなのだけれど、明日出張でアメリカへ半年、みたいなのが多いそうだ。だがそいつ自身はというと、大層旅行が好きで、いい歳して独り身なもんだからちょっとはしゃぐくらいのテンションで出張へいくそうだよ」
別に珍しい話ではないだろうと思った。
このご時世、どこだって人手は足りない。
ならば多少「融通」のきく人間に無茶な要求もあるだろうし、増えもする。
僕自身は外国とは無縁だから、多少羨ましい話でもある。
近年漸く一般家庭でも海外旅行がリーズナブルに楽しめるようになってきたというのに、まとまった休暇など久しくいただいていない。
これは日本人の宿命だと割りきっている。
「なんだ、随分楽しそうじゃあないか」
僕はそこで碧く光る透明な液体に口をつける。他愛のない話ほど酒の肴には丁度良いのかも知れないなと思った。
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