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「それで、つい先週くらいにそいつはアメリカのとある港町へ出張へ行ったんだ。ちょっと都会からは離れていて物はないが、長閑でいいところだったそうだ」  更に声を弱めて奴は尚も続ける。 気が付くと奴のグラスには酒がもうなかった。 僕はすぐに同じものをバーテンに注文する。合間でお、気が利くね、と奴ははにかんだ。 「朝早く移動したその日の昼下がり、早速奴は町へ繰り出した。いい天気だったらしい。太陽がサンサンと音をあげているくらい、ね。で、そいつは結構な酒?きでね。何かいい地酒はないか探して廻ったそうなんだが、そもそもその町には飲み屋が一軒しかなかったそうだ」 「ほー。結構な田舎だな」 「町自体はなかなかな広さだったようだけれどね。さすがアメリカだよ。それで、そいつも足取り軽く、其処にいったわけだ。ここからが、面白いんだけどさ」  今度はへばりつくようなニヤニヤとした笑いを顔に貼り付けて奴は続ける。 僕はというと、語り手の話し方かどうかわからないが、この話に随分とのめり込んでいた。 「薄暗い店内に入ると客から、店の人間からが一斉にそいつの方を見たんだそうだ。なんとなく睨まれていると感じたそいつは咄嗟に店内に目を向ける。それほど広くはない店内、4人掛けテーブルが8つ。あとはカウンターが5、6席。外見はお世辞にも綺麗とは言えない造りだったそうだが、中に入るとそれはもう煌びやかな装飾品ばかりで彩られている。流石のそいつも全員が全員自分の方を向いたから一瞬驚いたそうだが、どうやら自分が空気を読まずに店に入ったからだったと気が付いた。恰幅のよい紳士がグラスを持って高説を説いている最中だった為らしい。まぁ、元々他国で日本人はよく目立つそうだから、それも相まってなのだろうけれど」  貸しきりだったと言うことか。 店丸ごと、しかも一軒しかないお店でということは地元民の集まりだろう。 確かに、空気は読めていないな。 「しかし、睨み付けることもないだろうにな。住むところの差かね」 「さぁてね。ただ、今回のお店については後でちゃんと解が出るよ」
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